日曜日ということで軽めの話題です。ある人と「古典」の効用について議論しました。ここで言う「古典」とは清少納言とか論語とかではなくて、「それぞれの分野で評価の確立した必読書」という程度の意味の「古典」です。
読んだ方がいい古典や不朽の名作がたくさんある一方、読まなくてもいい古典もあります。難解で挫折した古典もたくさんあるし、つまらなくて無意味だと思って読むのをやめた古典もあります。当時は最先端の議論であっても、今では古くなってあまり価値がなくなった古典もあるでしょう。
他方、これから古典になるかもしれない最近の本もあります。いわば「現代の古典」とでも呼べる本です。その方から「お薦めの『現代の古典』はなんですか?」と聞かれたので、以下の3冊をお薦めしました。せっかくなので、ブログでご紹介させていただきます。
ジョン・ルイス・ギャディス 2018年 『大戦略論』 早川書房
ピュリッツアー賞受賞の歴史学者のジョン・ルイス・ギャディス氏が、エール大学で教えている「大戦略論(Grand Strategy Program)」の講義をふまえた本です。ギリシア・ローマ戦争、南北戦争、第二次世界大戦などを素材に「キツネ型」のリーダーと「ハリネズミ型」のリーダーの視点を比較します。読み物としておもしろく、世界史のおさらいにも役立ちます。各論ばかりで大局観のない政治的リーダーに読んでほしい本です(?)
グレアム・アリソン 2017年 『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』 ダイヤモンド社
グレアム・アリソンが1971年に書いた「決定の本質」は、キューバ・ミサイル危機を分析した名著で、国際政治学を学ぶ大学生や大学院生の間ではすでに古典だと思います。その著者が、中国の台頭が戦争につながる可能性について書いた本が「米中戦争前夜」です。最近よく聞く「トゥキュディデスの罠」という言葉はアリソンの造語です(たぶん)。中国と米国の間にあって難しい立場の日本人が、今後の米中外交を考えるための必読書だと思います。
ジャレド・ダイアモンド 2005年 『文明崩壊』 草思社
ピュリッツアー賞受賞のジャレド・ダイアモンド氏の本です。同氏の「銃・病原菌・鉄」はすでに古典と言ってもよいでしょう。しかし、気候変動問題が深刻化する中で「文明崩壊」は、現代人必読の「現代の古典」だと思います。次の引用文は、特に心に残っています。
マヤ、アナサジ、イースター島、その他過去の社会の崩壊から得られる大きな教訓のひとつは、社会の急落が人口や富や権勢の絶頂期からほんの十年か二十年後に始まる場合もある。(中略)ゆるやかな老衰という形はとらない。理由は単純。人口、富、資源消費、廃棄物生成が最大値に達するということは、環境侵害が最大になり、侵害が資源を滅ぼす限界点に近づくということだからだ。
これまでの「文明崩壊」は、マヤ文明やイースター島文明など、地球の一部の地域を占める“地域文明”の崩壊でした。しかし、次の「文明崩壊」は、“人類全体の文明”の崩壊かもしれません。文明崩壊を防ぐ方法を考える上で有益な本です。