核兵器廃絶に向けて:枝野代表スピーチ(概要)

今日(8月9日)は長崎原爆の日ですが、広島原爆の日の前日である8月5日、核兵器廃絶日本NGO連絡会が主催して、与野党の国会議員を集めて「核兵器廃絶へ日本はいま何をすべきか」をテーマに討論会が開かれました。

立憲民主党からは枝野幸男代表が出席してスピーチをしました。私も党の外交部会長として参考データ集めのお手伝いをしました。核軍縮問題に長年関心を持ち続けてきた福山幹事長も深くかかわり、枝野代表のスピーチ原稿ができました。野党第一党の代表の発言ですが、あまり報道されなかったのが残念です。

私の手元には最終稿はないので、一部変更があるかもしれませんが、枝野代表のスピーチの概要がわかる原稿案をご紹介させていただきます。なお、最終稿ではないので、「概要」ということでご理解ください。ご一読いただければさいわいです。

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「核兵器廃絶へ日本はいま何をすべきか」

被爆75周年を迎える今年、日本の国会を構成する各政党・グループが一致して、核兵器廃絶に向けた議論を行う場にこのように集っていること、また、その実現のため、今日までご努力をされた核兵器廃絶NGО連絡会の皆様に、感謝と敬意を表します。

あわせて、新型コロナウイルス感染症の感染が拡大し、なかなか渡航が難しい中、中満国連事務次長が、広島・長崎の平和式典に参列頂けることに、国連の核兵器廃絶に向けた意欲と熱意を強く感じています。この場をお借りし、被爆国の国会議員の1人として、最大限の敬意を表します。ありがとうございます。

さて、核兵器廃絶へ日本はいま何をすべきか。それは唯一の被爆国として、核保有国と非保有国の橋渡し役をつとめ、核軍拡の流れを止めることです。米ロ中距離核戦力(INF)全廃条約は破棄され、イランの核合意は崩壊、北朝鮮の核開発は止められず、中国とインド、インドとパキスタンという核保有国同士の国境紛争も起きるなど、核戦争の脅威は日々高まっています。また、核保有国は、核戦力を近代化して、核兵器の小型化、いわば「使い勝手の良い核兵器」の配備を進めています。

このような動きは、冷戦時代、米ソの二大超大国で軍備管理をしていた頃に比べて、核戦争の脅威がむしろ高まっていると評価せざるを得ません。来年で期限を迎える新戦略兵器削減条約(新START)の延長交渉の行方も予断を許さず、核軍拡をめぐる危機的状況は、ここ数年で悪化する一方です。

2009年、アメリカのオバマ大統領が「核なき世界」をめざして国際社会に訴え、ノーベル平和賞を受賞したことが、はるか昔のことのようです。これほど短い間にこんなにも状況が悪化したことに、驚くとともに、ただただ残念でなりません。

このような核軍拡、核の無秩序化を重く見た国々が、国連で核兵器禁止条約を採択してから3年がたちます。核兵器の開発や実験、保有、使用を全面的に禁止する史上初めての画期的な条約です。唯一の被爆国であり、非核三原則を持つ日本こそ、核兵器禁止条約の精神を尊重し、核保有国と非保有国の橋渡し役として核軍縮のリーダーシップをとるべきです。

しかし、政府は、今なお、米国の「核の傘」に入っていることを理由に、核兵器禁止条約に反対しています。また、北東アジアの安全保障を巡る状況は予断を許さず、核による脅威は高い緊張感を保ちつつ、我が国を脅かしており、国際的な環境整備が今後の大きな課題です。そのような中で、日本が核軍縮においてリーダーシップを発揮するには、米国との同盟関係を尊重しつつ、国際的な安全保障環境の整備を図る中で、核兵器禁止条約に参加するロードマップを描くことを模索すべきです。

そのためには、まず何よりも、どのような条件が整えば批准に向かうことができるのか、国会の中で、与野党が胸襟を開き、真摯に話し合うことが必要です。ここに集う私たちこそ、政治的な立場を乗り越え、核のない世界へ一歩踏み出すため、協力し合おうではありませんか。

米国との関係を見ても、NATO加盟国のオランダでは、米国との同盟関係を維持しつつ、核兵器禁止条約に参加できないかを国会で真摯に議論しています。米国の同盟国であるオーストラリアの労働党は、米国との同盟関係を維持しつつも、核兵器禁止条約に参加することを、選挙公約に掲げています。米国との同盟関係を尊重しつつ、核兵器禁止条約へ参加することを、矛盾せず解決する道は、日本のみが閉ざされているわけでは決してありません。

また、批准に時間を要するとしても、日本は、核兵器禁止条約の発効後に開かれる締結国会合に、せめてオブザーバーとして参加し、核保有国の米国や英国などとの橋渡し役を果たすことは可能なのではないでしょうか。

なお、日本の安全保障の基本的な立場である、専守防衛を大きく転換しかねない、「敵基地攻撃能力」の保有を巡る議論が、一部与党で高まっています。憲法上の課題などは今後厳しく議論するべきですが、北東アジアの安全保障環境への刺激が、私たちが今向き合っている「核のない世界」の実現を脅かすのではないか、強い懸念を抱いています。

さて、いま人類全体がコロナ危機と戦っています。相次ぐ豪雨のような自然災害の激甚化は、明らかに気候変動という地球的規模の危機が引き起こしたものです。人類はコロナ危機や気候変動危機と全力で戦わなくてはいけません。人間の力だけでは抗い切れないかもしれない危機と戦う中、人間同士が、核兵器で脅し合い、争っている余裕など全くありません。

コロナや気候変動と同じく、喫緊の課題である核軍縮に、核保有国も非保有国も同じテーブルに着き、軍縮、軍備管理、核不拡散など、関連する様々な分野で、ともに力を合わせていかなくてはなりません。その中で、唯一の被爆国である日本は先頭に立って貢献すべきです。核保有国間の相互不信の連鎖を食い止め、核戦争の危機を回避するためには、日本こそが、他の非保有国と連携しながら重要な役割を果たすべきです。