トランプ大統領は、民主党の大統領候補のバイデン前副大統領について「認知機能を計るテストを受けるべきだ。大統領は頭の切れる人物でなければならない」と述べて攻撃しました。
再選をめざすトランプ大統領は共和党の大統領候補ですが、共和党の大統領候補がこんなに口汚くなったのは最近のことです。少し前までは尊敬できる人物が、共和党の大統領候補に選ばれていました。
1996年の共和党大統領候補のロバート・ドールは次のように言いました。
民主党候補は我々の対立候補であっても敵ではない。
2008年の共和党大統領候補のジョン・マケインは、共和党支持者が対立候補のバラク・オバマを「嘘つき」「テロリスト」と責めたてている集会で、次のように言いました。
彼は立派な家庭人であり市民であって、基本的見解でたまたま私と意見が合わないだけだ。それがこの選挙戦のすべてだ。(中略)
私は彼(オバマ)を尊敬する。皆が相手に敬意を表する人になることを私は望んでいる。それこそがアメリカの政治であるべきだからだ。
ジョン・マケイン氏は立派です。共和党の政策にはあまり共感しませんが、マケイン氏は尊敬できる政治家だと思います。
政治的見解が異なるからといって、相手を尊敬できないとは限りません。どうしても尊敬できない政治家もなかにはいますが(永田町にけっこういますが、、、)、政治的立場が対立していても相互に敬意を払って紳士的に政策論争を行って選挙を戦うのが望ましいと思います。
いまふり返ると、マケイン氏とオバマ氏が争っていた大統領選挙は、どちらも立派な政治家同士の戦いでした。政治信条や政策は異なるかもしれませんが、どちらも健全な感覚をもった尊敬できる大統領候補でした。
前回の大統領選挙でトランプ大統領が誕生したわけですが、アメリカにとっても世界にとっても大きな損失でした(反米的な国は利益を受けましたが)。国際社会におけるアメリカのイメージは低下し、同盟国との信頼関係は損なわれ、気候変動対策は後退し、新型コロナウイルス対策に失敗して多くの犠牲者を出しました。
何よりも罪が重いのは、トランプ大統領がアメリカ社会に大きな分断をつくったことです。あるいはアメリカ社会の分断がトランプ大統領を生んだとも言えますが、その分断をさらに大きくしたのは間違いありません。
もしヒラリー・クリントン大統領が誕生していたら、世界はもう少しよい方向に進んでいたと思います。ヒラリー・クリントン政権にも問題はあったでしょうが、少なくともトランプ政権よりだいぶマシだったと思います。彼女も立派な政治家だと思います。
ヒラリー・クリントン氏が、大統領選敗北後のスピーチのなかで、公職をめざす若者に対して語りかけた部分は感動的でした。いちばん感銘を受けた部分は比較的わかりやすい単語で構成されていたので、引用させていただきます。
I have spent my entire life for fighting for what I believe in. I have had successes and I have had setbacks. Sometimes, really painful ones. Many of you are at the beginning of your professional public and political careers. You will have successes and setbacks, too. This loss hurts, but please never stop believing that fighting for what’s right is worth it. It is worth it.
公職を志す若者たちにヒラリー・クリントン氏は「私は自分が信じるもののために全生涯をかけて闘ってきた」と言い切ります。彼女は「成功したことも、失敗したこともある」と言い、失敗したときのつらさもよく知っています。それでも「正しいことのために闘うことを決してやめないでほしい」と力強く訴えます。
ヒラリー・クリントン氏は優秀だけれども「冷たい政治家」という印象を持たれがちです。しかし、彼女はロースクールで法律を学びつつ、教育学もあわせて勉強し、子どもの権利を守るための法整備に力を入れ、実績をあげました。
単にお金儲けや立身出世のために弁護士をめざしたわけではなく、20歳代の頃から社会派弁護士として子どもの権利を守るために闘ってきた闘士です。弱い立場の子どもたちを守るために弁護士になったヒラリー・クリントン、そういう人物こそアメリカ大統領になってほしかったと思います。
カジノや不動産業で金儲けばかり考えてきた人物よりは、ずっとアメリカ大統領にふさわしかったと思います。他国のことながら世界に影響を与えるアメリカ大統領は、とても重要です。民主党のバイデン大統領の誕生を願わずにはいられません。
*参考文献:ジョーゼフ・テルシュキン 2019年『言葉で癒す人になる』 ミルトス