「デジタルで読む脳」とトランプ政治

読売新聞7月12日付朝刊の「あすへの考」の「紙の本『深く読む脳』育む」というインタビュー記事がおもしろかったです。少し前にブログで「デジタルで読む脳、紙の本で読む脳」というのを書きましたが、その続編的なブログです。

*ご参考:2020年5月15日付ブログ「デジタルで読む脳、紙の本で読む脳」

デジタルで読む脳、紙の本で読む脳
認知神経科学、発達心理学の専門家のメアリアン・ウルフ教授(UCLA)によると、「デジタルで読む」ときと、「紙の本で読む」ときでは、脳のちがう部分が働いているそうです。メアリアン・ウルフ氏は失読症(ディスレクシア)の専門家であり、失読...

神経科学者のメアリアン・ウルフ教授(UCLA)の「デジタルで読む脳×紙の本で読む脳」が話題になっているそうですが、読売新聞の鶴原徹也編集委員が著者に電話取材してまとめたインタビュー記事より引用します。メアリアン・ウルフ氏は「深い読み」の重要性を強調します。

初等教育で重要なことは、子供を励まし、手助けをして、推理・推論・真偽判断を含む、総合的な読む力を育むことです。「深い読み」が、その先にあります。読み続けながら批評眼を養い、時代も文化も違う作者とも想像力を働かせて「対話」し、作者の思いに共感したうえで自分の思想を築いていく。

同氏は言ってませんが、私が勝手に言葉を補うと、「深い読み」の反対は「浅い読み」です。会話では「読みが甘い」とも言いますが、行間や文脈、背景の複雑な事情を読み解けないのが「浅い読み」だと思います。表面的な「浅い読み」になりやすいのが、真偽のわからない情報やフェークニュースであふれるネットにどっぷりつかる「デジタルで読む脳」です。メアリアン・ウルフ氏は続けます。

民主主義の観点からも「深い読み」はとても重要だと私は思います。考えの違う他者の存在を認めることが、基本的人権の尊重につながるのです。

トランプ大統領は読書嫌いです。歴代大統領の中で異例です。私の見るところ、トランプ氏は読むことに習熟していないため、他者に共感できない。自身が知っていることを過信し、妄信してしまう。トランプ氏の唱える「米国第一」主義は、私には幼稚な自己中心主義に映ります。

まったく同感です。「浅い読み」で知識の薄い人ほど、自分が持つ偏って限られた知識に依存し、思考の幅が狭くなります。幅広く深い知識を持つ人ほど、さまざまな可能性を検討し、行間を読み、相手の立場を想像し、柔軟でバランスのとれた思考ができます。

トランプ氏も本を読みませんが、保阪正康氏によると安倍総理も本を読まないそうです。日米の首脳は、本を読む習慣がないから「深い読み」ができず、メアリアン・ウルフ氏の言う「幼稚な自己中心主義」に陥りがちです。本を読まない政治家は、聞きかじりの耳学問で誤った政策を採用してしまう傾向があります。

*ご参考:2017年7月5日付ブログ「本を読まない首相【書評】保阪正康著『田中角栄と安倍晋三』(2)」

本を読まない首相【書評】保阪正康著「田中角栄と安倍晋三」(2)
ちょっと間があきましたが、保阪正康さんの「田中角栄と安倍晋三」の抜粋的書評のパート2です。この本でもうひとつ興味深かったのは、東条英機と安倍晋三の両首相の共通点です。 保阪さんによれば;

メアリアン・ウルフ氏は、デジタル端末画面では「視線がジグザグに飛び」、読み飛ばす傾向があることを指摘し、次のように述べます。

デジタル媒体は、文章が短くなる。読み飛ばす読み手は、書き飛ばす書き手になるものです。ツイッターは象徴的です。またぞろトランプ氏ですが、自身の思いつきを単純な短文でつぶやくことしきりです。それでは事態の複雑さを見落とし、多角的な見方もできません。良い判断ができなくなるのではないか。

トランプ氏が「良い判断」をした例は思いつきません。トランプ大統領と安倍総理は、英国労働党の党首だったマイケル・フット氏の次の言葉をかみしめてほしいものです。

権力の座にいる人には、本を読む時間がない。しかし、本を読まない人は、権力の座に適さない。

ゴルフをする時間があったら、本を読む時間もあるはずです。ヤクザ映画や百田尚樹の歴史本みたいなもので余暇を過ごす首相が長期政権を維持しているのが、日本の不幸です。

参考文献:

  • メアリアン・ウルフ、2020年「デジタルで読む脳×紙の本で読む脳」インターシフト
  • 保阪正康、2016年「田中角栄と安倍晋三」朝日新書