ここ数日の大雨は熊本県を中心に福岡県にも大きな被害をもたらしています。お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された皆さまに心からお見舞い申し上げます。
このところニュースで「数十年に一度の大雨」といった表現をひんぱんに耳にします。気候変動(地球温暖化)のせいで、明らかに台風や大雨が激甚化しています。「数十年に一度」が「新しい日常」になったと覚悟する必要があります。
いま人類は、コロナ感染防止のために接触を避ける「新しい日常」と同時に、気候変動で自然災害(台風、高潮、大雨、干ばつ等)が激甚化する「新しい日常」という、2つの「新しい日常」への対応を迫られています。
気温が上昇すると、台風の規模が大きくなったり、高温で海水が膨張して高潮が発生しやすくなり、災害の被害は大きくなります。50年に一度といった大雨が毎年のように発生する異常な時代に入りました。
政治の責任として考えなくてはいけないのは、(1)災害時の避難や救援のあり方、(2)防災教育や災害インフラの強化、(3)これ以上の気候変動の防止(温室効果ガスの排出抑制)、の3つです。
コロナ危機でもそうでしたが、地方自治体(特に小さな市町村)で公務員の削減や公務員の非正規化が進んだ結果、行政の対応能力が低下しています。この前も書きましたが、保健所は1995年度の845カ所から469カ所まで減少しました。感染症への対処能力が低下したのは明らかです。
自然災害の被害が大きな山間部は小さな市町村が多く、災害に対応する行政スタッフの対応能力が弱まった地域が多いと思います。危機に強い行政をつくるためには、これまでの公務員の削減方針を見直すことも必要だと思います。
また、内閣府に防災担当部署はありますが、災害時の司令塔としての機能が弱いことから、府省の総合調整機能を持った司令塔としての組織を新設(強化)する必要があります。自民党議員からも「防災省」を創設すべきという声もありますが、問題意識としては十分理解できます。
防災インフラの建設も必要です。リニア新幹線とか、港湾とか、高速道路といった経済インフラは、人口減少社会ではあまり必要なくなります。しかし、海面上昇に備えた堤防整備や医療施設の整備など、いのちを守るインフラは必要性が増します。
今後は気候変動に備えてレジリエンス(災害から回復する力)を強化するインフラ整備が必須になります。異常気象の日常化に備えるインフラ整備が、これからの公共事業の柱のひとつにしなくてはいけません。
そしてこれ以上の気候変動を防止することも重要です。来年には米国でバイデン大統領が政権に就くでしょう。バイデン氏は大統領就任1日目に気候変動に関わるパリ協定に復帰すると宣言しています。トランプが就任1日目にTPPから脱退したのと対照的に、国際協調を重視する政権になるでしょう。
すでに欧州連合が、コロナ経済危機からの復興を「欧州グリーン・ニューディール」で実現すべく動き始めています。アメリカと欧州が「グリーン・ニューディール」を合言葉に気候変動対策に取り組むことになるでしょう。
日本だけが「グリーン・ニューディール」に出遅れています。老朽化した石炭火力発電所を廃止するといった最低限の対応では、気候変動対策としては不十分です。さらなる対策が必要です。
火力発電所や原子力発電所といった中央集中型エネルギーは、災害やテロ(サイバーテロ)に弱いことが知られています。逆に分散型の再生可能エネルギー(自然エネルギー)は、ネットワークの一部が壊れても被害が全体に及ばないため、自然災害にも人的災害(テロ等)にも強く、危機に強い電力源です。
災害に強く、かつ、エネルギー効率(断熱性や省エネ性能)が高い公共インフラに転換することで、脱炭素化と省エネ(=省コスト)化を図ることができます。省エネ投資の場合は、数年から十数年で投資額を回収できるケースが大半です。将来の経済的負担を減らす意味でも有効です。
政治の責任で2つの「新しい日常」への対応を考え、実行に移していかなくてはいけません。エネルギー転換に関しては、経済産業省や経済界の抵抗は激しいでしょう。防災インフラの整備は理解を得やすいですが、その代わりに他の予算を削ることになり、削られるセクターの反発は激しいでしょう。「新しい日常」への適応のためには、新しい政治が不可欠です。