日本教育新聞(2020年2月24日)によると、宮崎県では新年度予算から福祉系高校に通う生徒を対象に年間3万円までの助成金を支給するそうです。介護福祉士などをめざす福祉系高校の定員充足率が低かったことへの対策だそうです。県教育委員会によれば、普通科高校に比べると、福祉系高校は実習費や教材費の負担が重く、そのことが不人気の原因になっているそうです。
福祉系高校の卒業生は、県内就職率が高く、就職後の定着率も高いそうです。県内に定着する若者を増やすためにも、不足している介護人材の安定確保のためにも、素晴らしい政策だと思います。年間3万円では足りないくらいです。
日本は普通科高校の割合がとても高い国です。たとえば、欧州諸国では、だいたい高校生の半分が普通科高校に通い、残り半分が職業高校(専門高校)に通います。福祉系や商業系、工業系、農林水産業系の職業高校の卒業生は、高校卒業後は関係分野に正社員として雇用されることが多いとされます。
日本で普通科高校の割合が異常に高いのには、歴史的な背景と学歴信仰があります。戦後の高度成長期に高校進学率が急上昇しました。普通科高校と職業高校をコスト面で見ると、普通科高校は圧倒的に安上がりです。教員と教室と教科書があれば、普通科高校は成り立ちます。
しかし、職業高校は、実習するための機材(漁業高校なら船が必要です)、実習する場所(特に農業高校は広い敷地が必要です)、職業訓練の指導ができる技術者や専門家が必要になり、とても高コストです。国際的にも高い評価を受けている高専(国立高等専門学校)は、中堅技術者養成に強みがあり企業の評価も高いですが、質の高い教員と実習機材のコストはとても高くつきます。
そのため戦後の急激な高校進学率上昇に対応するため、当時の文部省は普通科高校を増やす道を選びました。当時の財政的制約を考えればやむを得なかったかもしれませんが、その後に日本が豊かになった頃には方針を転換し、もっと職業高校教育を充実すべきだったと私は思います。
また普通科高校の割合の高さは、大学進学率の上昇も影響しています。大学進学熱が過熱して普通科高校のニーズが高まったということもあります。大学に進学する人には普通科高校はよいのかもしれません。しかし、普通科高校では職場ですぐに役立つ知識やスキルを身につけることは難しいため、高校卒業後すぐに働く人にとっては普通科高校は不親切といえるかもしれません。
私はもっと職業高校(専門高校)教育にお金をかけ、職業教育を充実させるべきだと思います。同じ学力水準の高校生を比較すると、高校を出てすぐ働く普通科高校卒業生よりも職業高校卒業生の方が、正規雇用に就いて継続的に働く割合が高く、ニートやフリーターになりにくいことがわかっています。
普通科高校に偏重した高校教育の仕組みを転換し、もっと職業高校を重視すべきだと思います。もちろん職業高校を卒業してすぐ働く必然性はなく、大学に進学する人がいてもよいわけです。職業高校で学んだ教科と近い専攻の大学に進学することもあってよいと思います。たとえば、農業高校を出て大学で経済学部で農業経済学を専攻してもいいし、福祉系高校を卒業してさらに大学で経営学の勉強をして介護施設のマネジメントの専門家をめざしてもいいわけです。職業高校出身者は問題意識がはっきりした大学生になると思います。
職業高校や高専にかかる予算は、長い目でみれば確実に割にあう高収益投資です。職業高校はその性質からいって高コスト体質ですが、「コスト」ではなく、「投資」とみなせば、知識経済化がすすむ中で有益な投資です。人への投資こそ成熟経済では高収益の投資です。ハードのインフラ投資で経済が成長する時代ではなく、知識(ソフト)への投資が経済成長のカギを握る時代です。
宮崎県教育委員会の判断はまったく正しいと思います。福祉系高校の入学者には、年に3万円といわず、実習費や教材費をすべてカバーできる程度の金額を助成すべきです。県内に若者が定着し、かつ、人手不足の介護職員として働いてくれるなら、年10万円でも20万円でも長期的には割に合うと思います。文部科学省や福岡県教育委員会もぜひ宮崎県教育委員会を見習ってほしいと思います。