ブログのタイトルが「幸福研究」だと、「山内さん、どうしちゃったんだろう?」「変な自己啓発本にでもハマったのかな?」と心配される方もいるかもしれません。「〇〇の科学」みたいな新興宗教もありますね。
一昔前には「幸福研究」などという学問領域はありませんでした。しかし、この15年ほどで「幸福研究」が発展し、心理学者、政治学者、経済学者など、さまざまな分野の専門家が取り組んでいます。OECDやEU、イギリス政府、フランス政府などの主要な国際機関や国も関心を持ち、幸福研究のガイドラインなども国際的にできつつあります。
そんな「幸福研究」をわかりやすく説明したのが、「デンマーク幸福研究所が教える『幸せ』の定義」という本です。幸福研究については、ハーバード大学の学長だったデレック・ボック著「幸福の研究(The Politics of Happiness)」(東洋経済新報社、2011年)も有名ですが、「デンマーク幸福研究所」の方がより平易な言葉で書いてあり、うすくて読みやすく、お薦めです。
*参考文献:
マイク・ヴァイキング 2018年「デンマーク幸福研究所が教える『幸せ』の定義」晶文社
デレック・ボック 2011年「幸福の研究(The Politics of Happiness)」東洋経済新報社
誰でも気づいていることでしょうが、人の幸せはお金や富だけでは測れません。しかし、国の発展レベルを比較する時に必ず使われるのは、GDPという経済のモノサシです。
ケガをして入院した時の医療費や薬代もGDP増加に貢献するし、福島第一原発事故の後始末の除染事業もGDP増加に貢献します。果たしてケガや原発事故処理にかかったお金でGDPが増加して、人は幸せになったといえるのか、社会が発展したといえるのか。大いに疑問です。
経済的な尺度は、それだけでは不完全です。株価が上がり、企業収益が伸びても、実質賃金が伸びず、正規雇用が減ったら、暮らしが良くなったとはいえないと思います。経済的な指標の欠点を補う別の指標が必要です。
経済指標に代わる指標を探して、さまざまな人や国家や組織が試行錯誤してきました。その先駆者といえるのは、ブータン王国の開発したGNH(Gross National Happiness:国民総幸福量)でしょう。
学問の世界でも幸福研究が広まりつつあり、欧米の有名な大学(スタンフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス等)には「幸福経済学」や「幸福研究」といった科目が開講され、人気だそうです。そういった研究成果をわかりやすく(つまみ食い的に)紹介したのが「デンマーク幸福研究所」です。
たとえば、幸福と健康や寿命の間には明らかな相関関係があります。アメリカのノートルダム修道女学校の修道女の追跡調査によると;
あまり幸福でない修道女のうち85歳まで生きたのはわずか40パーセントである一方で、幸福な修道女の90パーセント近くが85歳まで生きたことを発見しました。(中略)最も幸福な修道女は、あまり幸福でない修道女に比べ、平均9年も長生きでした。
なんと幸福かどうかで寿命が9年もちがうという調査結果があるそうです。9年の寿命の差というのは、喫煙者と非喫煙者の寿命の差とほぼ同じだそうです。幸せに暮らせば、寿命ものびるというわけです。
研究によれば、ボランティアをする人は幸福度が高いそうです。もちろん「自分が幸福だから人のためにボランティア活動をする余裕があるんだろう」と思う人も多いでしょう。しかし、それだけではないようです。ボランティア活動や利他的な行為には、幸福度を高める何かがあるようです。
ボランティアが幸福度を高める理由として以下のものが挙げられるそうです。
1)ボランティア活動は人生に意義を与え、そのことが幸福度を高める。
2)ボランティア活動を通じて人間関係を築く機会ができ、人間関係は幸福度を高めることにつながる。
3)自分よりも不幸な人と接することで、自分の置かれている状況に感謝するようになり、より高い幸福度につながる。
最後の理由は「ちょっとどうかな」と思う人もいるでしょう。しかし、自分より恵まれたお金持ちの友人と比べてみじめになるよりも、難民キャンプやスラム街の子どもたちの境遇と比べて「日本に生まれてよかった」と感謝するのは、そんなに不健全でもないかなと思います。「足るを知る」ためのきっかけとしての意味はあるのかもしれません。
個人的には学生時代から国際協力NGOでボランティア活動に参加し、イベントの手伝い、翻訳ボランティア、募金活動などをやってきました。そこで出会う人は、人柄的にも知的にも優れた人が多かった記憶があり、よい人間関係ができたと思います。20代の前半は、平日はJICA職員として働き、土日は国際協力NGOでボランティア活動という生活を送っていましたが、幸福度アップにつながっていた実感があります。
また、カナダの大学の研究によると、同じ20ドルを使うにしても、自分のための使うより、他の誰か(家族や友人、慈善事業等)のために使う方が、満足度が高く、幸福につながるそうです。ひょっとすると山内康一事務所へ政治献金していただくと、より幸福になれるかもしれません(?)。
社会学者のソースティン・ヴェブレンは「誇示的消費」という概念を提唱しました。「誇示的消費」とは「自分が世の中に影響力があることを示すのを目的とした消費」ということです。ミンクの毛皮のコートは、ふつうのコートと機能は同じですが、周囲に「私はお金持ちだ」ということを誇示するために消費されます。人の評価を気にして消費しているわけです。しかし、こういう行為は、幸せにはつながりません。人と比べだすと、きりがないからです。上には上がいて、上と比較すると、自分がみじめに思えます。
FacebookやInstagramに投稿するためにおしゃれなお店に行ったり、一生懸命にケーキを焼いたり、景勝地に行ったりする人も多いようです。しかし、こういう「誇示的消費」的な行動パターンは不幸を生みます。ミシガン大学によるアメリカの若者を対象とした研究によると、Facebookの利用と生活満足度の間には明らかな相関関係があるそうです。Facebookを使えば使うほど、人は悲観的になるようです。他の人たちの投稿写真を見ていると「うらやましい」という感情が生まれ、それが幸福度を下げます。現代人は気をつけた方がよいかもしれません。
イギリスのキャメロン首相(当時)は「人生はお金だけではない。いまやわれわれは、GDPだけではなく、GWB(General Well-being:一般の幸福)にも焦点を当てて取り組むべきだ」と述べました。その結果、英国政府では幸福研究の成果を取り入れて、ウェルビーイング評価(well-being valuation)が政策評価のマニュアルにも含まれるようになっているそうです。英国政府は幸福研究の成果を犯罪や文化、保健のような分野に取り入れているそうです。イギリスの保守党政権は、意外とリベラルで革新的です。
安倍総理もあやしげなGDP統計と株価ばかりを気にして政権運営をするのはやめた方がいいと思います。過労死や自殺のない社会。セーフティネットが充実していて将来不安の少ない社会。お互いにささえ合う社会。環境負荷を減らして持続可能な社会。格差の少ない平等な社会。そういう社会をつくるために幸福研究の成果を政治や政策に取り入れる必要があると思います。
個人的には幸福研究の成果を取り入れ、(1)人と比べて一喜一憂しない、(2)足るを知る、(3)ブランド品等の誇示的消費にはふけらない、といった点に心がけて生活しようと思っています。