世界的ベストセラー「サピエンス全史」の著者のユヴァル・ノア・ハラリ教授(ヘブライ大学歴史学部)が、テロリズムについておもしろいことを言っています。イスラエル人だったらおそらく徴兵で軍務にも就いたことでしょう。さらに軍事史を研究していたハラリ氏だけに、テロリズムの本質を理解していると思います。そういう人の言うことだけに説得力があります。
テロリズムは、政治システムを変化させる軍事力のない集団が行動を起こしたい場合に、人の弱さにつけこんで行う戦略です。テロ集団はショーを行うように、テロ行為をします。テロリストは国を征服したり、軍隊を打ち負かしたりすることはできません。でも、人々の心をとらえることができます。
恐怖心に訴える「テロ」に対しては、心の平静を保って対応を考えなくてはいけません。たとえ話でハラリ氏はテロリズムへの過剰反応を諫めます。
ある意味、テロリストは陶器店の中に入ったハエのようなものです。ハエは力が弱く、ティーカップひとつ動かすことができません。では、ハエが陶器店を破壊しようと思ったらどうするか。一頭の象を見つけ、その象の耳の中に入ってブンブン飛べば、象は怒って暴れ出し、陶器店全体を破壊します。
これがこの20年間で、中東で起きたことです。テロ組織は独力ではイラクを破壊できなかったでしょう。でもアメリカ象の耳の中に入って、アメリカを怒らせ、結果としてアメリカがイラクを破壊したのです。
今、テロリストたちは廃墟の中でますます力を増大させています。彼らがやったことは、単にアメリカ人を過剰反応させることだけでした。ほとんどの場合、それこそがテロリストのやり口です。だからわれわれは、テロリズムを極端に怖がり、理性を失ってはなりません。もしわれわれが過剰反応し、軽率に軍事力を使った場合、それはテロリストの利益と目的に適うことになります。
同時多発テロ(9・11事件)を受けたブッシュ(Jr.)大統領は、明らかに過剰反応しました。「十字軍」という軽率な言葉を使ってイスラム世界の反発をかい、軽率に軍事力を行使しました。いま振り返ると軍事力中心の対応ではなく、警察力と情報力を中心とした対応にとどめるべきだったと思います。いまだにイラクとアフガニスタンの混乱はやみません。イラク戦争・アフガニスタン戦争はアメリカに大きな傷を残しました。ハラリ氏の指摘は正しいと思います。外交や安全保障に関しては、どんな時も過剰反応は禁物です。どんな時も冷静さを保つことが大切です。