民進党の福岡県連青年委員会は、毎年研修合宿を行っています。研修のテーマは年によって異なりますが、今年のテーマは「外交・安全保障」でした。民進党福岡県連には学生部というのがあり、研修合宿に参加するのも大学生が中心です。
その研修の最後は、前原誠司元外務大臣の講演の予定でした。しかし、急に代表選が入ったために、前原さんの講演がキャンセルになりました。その代打で私が講演することになりました。
講演のお題は「世界のなかでの日本の立ち位置と果たすべき役割」というもの。なかなか壮大なテーマで、ざっくりしているので、自由に話しても許されそうです。大学や高校で講演するときは「政治的中立性」ということを多少は意識して、なるべく客観的に政治色を薄めて話すように心がけています。しかし、今回は民進党の企画なので、政治色を出しても誰からも文句はいわれないでしょう。ますます自由に話せます。
大学生が相手だったので、学生時代にやっておくべきこと、社会人になったら心がけてほしいこと、アジアの国々を訪れることがあったら意識してほしいこと等を話しました。また、歴史というタテ軸と国際比較というヨコ軸のふたつの座標軸を持ち、主観を排して客観的にものごとを見ることの大切さを強調しました。
歴史を学ぶことの重要性に関しては、中曽根康弘元総理の言葉を引用し、①太平洋戦争はアジアの民衆から見れば侵略戦争以外の何ものでもないこと、②加害者は忘れても被害者はなかなか忘れないこと、③偏狭なナショナリズムを防ぐのが政治家の役割であり、煽ることがあってはならないこと等をお話ししました。
私がフィリピンに留学していた1994年頃は戦後50年ほどだったので、フィリピンのお年寄りの多くには日本軍占領時代の記憶がありました。身内を日本軍に殺された人がどんな村にも必ずいたものです。戦争当時のフィリピンの人口が約2000万人ほどでしたが、戦争で約110万人が犠牲になったといわれます。そういったことを肌で知るためにも、学生時代に海外に行ってその国の歴史を知ることの重要性をお話ししました。
以下に学生にご紹介した中曽根康弘元首相の言葉を引用します。
私なりに大東亜戦争を総括するなら、次の五点に集約されます。一、昔の皇国史観には賛成しない。二、東京裁判史観は正当ではない。三、大東亜戦争は複合的で、対米英、対中国、対アジアのそれぞれの局面で性格が異なるため認識を区別しなければならない。四、しかし、動員された大多数の国民は祖国防衛のために戦ったし、一部は反植民地主義・アジア解放のために戦ったと認識している。五、英米仏蘭に対しては普通の戦争だったが、アジアに対しては侵略的性格のある戦争であった。
もっとも対ソ連では、日ソ中立条約を破ってソ連が対日参戦したこともあり、日本は「侵略された側」といえます。対ソ連に関しては、日本は「被害者」という側面もあります。中曽根総理の要約に「6」として対ソ連を追加してもよいかもしれません。
中庸で健全であるべき愛国心に対して、偏狭なナショナリズムが反作用的に出てくるのはありがちな話だが、国益を長期的観点から考え、短期的に起こる過度のナショナリズムに対して身を以て防波堤としてこれを抑えるのは政治の役割である。相手国の言動や行動に刺激され、日本のナショナリズムを扇動するようなことがあってはならないし、国民への丁寧な説明と熟慮を重ねた冷静な外交こそが求められる。
中曽根氏という自民党の元総理大臣の言葉だけに重みがあります。中曽根元総理を「リベラル」だと思う人はいないでしょうが、その中曽根氏の発言です。少なくとも昭和の自民党の総理大臣の大半は、戦争を体験した世代であるがゆえの戦争への反省があったように思います。岸信介元総理は例外だと思います。戦争を知らない自民党の総理は、だんだんと危うい方向に行っているように感じます。
太平洋戦争を経験した世代として、戦争を知らない世代に伝えておかねばならぬことがある。それは、二十世紀前半の我が国の帝国主義的膨張や侵略によって被害を受けたアジアの国々の怨恨は、容易には消え去らないということだ。日本独特の「水に流す」は日本以外では通用しない。韓国や中国における現在の反日教育、ナショナリズムを高揚する教育をみれば、心のわだかまりが溶解するには長い時間と期間を要すると考えなければならない。こうした考えに立って、我々の歴史の過失と悲劇に対して、率直な反省を胸に刻みつつ、この失敗を乗り越えるための外交を粘り強く進めて行く必要があることを我々は今一度、銘記しなければならない。そうした意味で、日本の歩むべき道は、失敗に対する深い思慮とともに、アジアと国際社会の一員として、平和を守り、互いの利益と協力を尊重しながら国際社会に貢献することである。
中曽根元総理は内務官僚でしたが、戦時中は海軍将校として戦争を体験しています。そういう人の言葉だから重みがあります。自民党の後輩たちも、中曽根元総理の見識に見習ってほしいものです。
いま代表選の真っ最中ですが、民進党は排外的ポピュリズムや偏狭なナショナリズムと戦う政党、平和主義の政党であってほしいと思います。民進党にも「保守系議員」がいますが、中曽根元総理のような「保守」であってほしいと思います。