連載ブログの4回目です。これまで3回にわたって「安倍一強」の背景を説明してきましたが、次は「安倍一強」の脆弱性について整理します。
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5.安倍一強の弱点
(1)安倍政権への支持は、「消極的支持」あるいは「相対的支持」の割合が大きい。固い右派支持層の上に、やわらかい消極的支持層が乗っかっている構造。流れが変われば、やわらかい消極的支持層は、一気に雪崩を起こす可能性がある。岩盤の右派層以外は、状況次第で容易に支持を変える可能性がある。
(2)小選挙区における「野党すみ分け」が進めば、小選挙区での自民党圧勝はむずかしくなる。「野党共闘」というと政策合意まで含めた積極的な連携をイメージさせ、ハードルが高い。しかし、単に候補者の擁立を見送ってつぶし合うのを避ける「野党すみ分け」でも効果はある。政策合意なしでも実現可能な「野党すみ分け」が、自民党の圧倒的優位を崩す可能性は高い。
(3)「民主党政権の失敗の記憶」も時間がたてば多少は薄れる。2006年の第一次安倍政権は散々な結果に終わり、安倍総理は「政権投げ出し」と批判された。あれだけひどい辞め方をした安倍総理が、わずか5年ほどで再び総理の座に戻ると予測した人は2007年当時は少なかった。「安倍政権の失敗の記憶」も5年で薄れた。民主党政権の失敗の記憶も、徐々に薄れる可能性はある。民進党が「民主党政権の失敗」から教訓を学び、「民進党は変わった」という印象をつくることができれば、民進党への支持が回復する可能性もある。
(4)世論調査によれば、アベノミクスや共謀罪、憲法改正等の安倍政権の個別の政策課題を世論が強く支持しているわけではない。世論調査を素直に見れば、「政策は支持していないけれど、政権は支持している」という人が意外なほど多い。政策を支持する支持者は、政策がぶれない限りは支持し続ける。しかし、政策を支持しているわけではない支持者は、なんとなくイメージで支持しているものと思われる。他により良い政策を掲げる政党や政治家が出てくれば、支持を乗り換える可能性は十分にある。民進党がより良い政策パッケージを示せれば、安倍政権のフワッとした消極的支持層を切り崩すことも可能かもしれない。
(5)自民党の支持基盤が弱体化するなかで、公明党の基礎票の役割が大きい。しかし、共謀罪にしても憲法改正にしても、公明党支持者があまり好まない政策である。公明党支持層が、自民党への支持をやめる(あるいは支持を弱める)だけでも大きな差が生じる。「比例区では公明党に投票するが、小選挙区で自民党の候補者には入れたくない」という公明党支持者が増えれば流れを変える要因のひとつになる。
(6)世論調査を見る限り、自民党は無党派層の動員にそれほど成功していない。しかし、争点のない(争点の弱い)国政選挙が続いて、無党派層が選挙に行かない傾向が続いている。低投票率は、固定票の多い自民党と公明党に有利に働く。2012年の民主党政権からの政権交代選挙を除けば、「低投票率のおかげで争点なき選挙に圧勝」というのが、安倍流の必勝パターンとなっている。憲法改正などの重要な争点が出てきて、投票率が高くなると安倍政権にとってはリスク要因となる。
(7)自民党内不協和音が少しずつ表に出てきている。唐突な憲法改正発言に対しては自民党内の批判もある。次の内閣改造の後には、何年待っても大臣になれない自民党ベテラン議員の不満も高まることが予測される。安倍総理に批判的な自民党議員による反アベノミクス勉強会ができるなど、自民党内の不満のマグマが少しずつ高まっている。党内の権力闘争が強まれば、政権に批判的な声も報道されるようになり、「安倍一強」の色彩が弱まる可能性がある。
(8)不満を持つ役所の抵抗が見られるようになってきた。財務省や外務省、文部科学省などの安倍政権下で不遇な官庁が非協力になると、政権運営にもほころびが出てくる。霞が関からのリークなども増えてくれば、政権にとってマイナスの報道も増える。一部の役所の非協力は、政権へのダメージにつながりやすい。
(9)そもそも安倍政権の政策はあまりうまく行っていない。「安保法制で抑止力向上」という理屈は成り立っていないことは実証済み(北朝鮮の暴走や中国軍機へのスクランブル発進数増加等)。トランプ大統領ベッタリの外交も危うい。中韓とのアジア外交はまったく進展なし。北朝鮮の暴走も防げず。アベノミクスもうまく行っていない。デフレ脱却は失敗。実質経済成長率も低め。非正規雇用が増え、失業率が低いのに賃金はあがらない。格差も拡大している。そういった政策面の手詰まりに多くの人が気づき始めた。政策の行き詰まりが、政権の行き詰まりにつながる時期が近づいている可能性がある。
以上のような「安倍一強」の終わりにつながる要素を列挙してみました。次回は「民進党が政権政党になるためにやるべきこと」をまとめて提言したいと思います。おそらく次回が最終回です。