世界の軍事費ランキング

昨年、高校生に「国際政治経済」という講義をした時に、いろんな分野の世界ランキングを紹介したことがあります。軍事費の世界ランキングが興味深かったので、ご紹介させていただきます。

おそらく純粋に軍事力ということでいえば、断トツの1位が米国、2位ロシア、3位中国、4位インドといった感じだと思います。過去の蓄積(技術力、実戦経験、訓練、戦闘教義、戦略・戦術等)を考えると、いまでもロシアはかなりの実力です。トランプ政権によるシリアへの巡航ミサイル攻撃でロシアとの緊張が高まっていますが、米国と事を構えることができる大国としてはロシアが筆頭だと思います。

しかし、軍事費に関しては、かなり様相が異なることに驚きます。昨年調べた時のデータですが、今もそんなに変化はないと思います。

1.米国      5,960億ドル

2.中国      3,859億ドル

3.サウジアラビア 2,274億ドル

4.インド     1,934億ドル

5.ロシア     1,793億ドル

6.フランス     557億ドル

7.イギリス     524億ドル

8.日本       470億ドル

9.韓国       462億ドル

10.ドイツ     452億ドル 

軍事費のデータはあまり正確なものは期待できません。出典によって数字が異なります。また、先進民主主義国以外は情報公開に後ろ向きです。さらに、軍事費の定義は、国により異なります。例えば、軍人への年金(恩給)も軍事費に計上する国が多いですが、日本の退職自衛官への年金は防衛費に計上していないと思います。宇宙開発の費用も軍事費に含むことがあります。そういう不正確さを無視して、ざっくり比較します。

第一に中国の軍事費が米国に迫りつつあることに驚きます。日本と中国の軍事費の格差は開く一方です。他方、GDPに占める軍事費の割合で見れば、中国の軍事費が異常に多いとは言えません。経済発展により中国の経済規模が米国に迫りつつあることの反映と言えるかもしれません。

軍事費の数値だけを見ても、日本が単独で中国と対抗することは不可能になりました。日本の財政事情を考えれば、防衛費を2倍や3倍に増やすのは夢物語です。安倍政権の「防衛費増額で中国に対抗」という発想は、最初から破綻しています。それ以外の方法を考えるのが現実的です。日米同盟を維持しつつ、韓国、オーストラリア、インド、ベトナム等との関係強化も大切です。

他方、「中国を封じ込める」という冷戦期的な発想は不毛であり、不可能です。日中関係の改善は急務です。安倍政権は日中関係改善のために何の努力もしていませんが、東アジアの軍事バランスを考えると中国との関係改善、中国軍と自衛隊との信頼醸成措置、東アジアの軍縮の道筋をつけることを考えるべきです。

次にサウジアラビアの軍事大国ぶりも驚きです。石油収入が潤沢なので、多額の軍事費をまかなう余裕があるのでしょう。サウジアラビアにとっての最大の脅威は、シーア派国家のイランでしょう。イランは人海戦術でイラン・イラク戦争を戦い抜きましたが、サウジアラビアは人口ではイランに劣ります。その分を兵器の質や量でカバーする意図があるのかもしれません。イランの核開発、イエメンでのイランとの代理戦争などの要因が、サウジアラビアを軍拡に追い込んでいるのでしょう。

意外に思ったのは、インドの軍事費の多さです。ロシアを抜くほどとは思っていませんでした。インドも経済発展にともない、軍事費を増やす余裕があるのかもしれません。宿敵のパキスタン、中国海軍のインド洋進出等を考えても、軍事費が多すぎるように感じます。インドの差し迫った脅威はせいぜい宿敵パキスタンくらいだと思いますが、パキスタンの国力を考えれば、過剰な軍備のように思います。国内の貧困、教育格差など、インドはもっと内政に力を入れればいいのに、と余計なお世話的なことを考えてしまいます。

インドにしても、ロシアにしても、国力(特に経済力)を考えると、軍事費に予算を使いすぎだと思います。ロシアもインドも国土が広大なので、兵士の人数も部隊の数も多くなるのかもしれません。それにしても多いです。経済発展の果実を軍事に回しているのは、他人事ながら残念なことです。

日本と韓国の軍事費がほぼ同じというのも少し驚きました。韓国の経済力がついてきたこともあるのでしょう。ハイテク兵器で武装した韓国軍が、日本を仮想敵国にしたらやっかいなことです。日韓の関係強化と友好親善は重要だと再認識しました。韓国を敵視したら、本当に敵になってしまいます。北朝鮮に対処するためにも、安っぽい排外的ナショナリズム(「嫌韓論」とか)を捨て、韓国との協力関係を強化する必要があります。現実的に安全保障政策を考えれば、韓国との連携は、メリットはあっても、デメリットはありません。

日本の防衛費はあいかわらずGDP1%程度なので、先進国平均の23%に比べれば少ない部類に入ります。しかし、財政的な制約もあり、「安全保障のジレンマ」に陥らないためにも、やみ雲に防衛費を増やすのは考えものです。仮に日本が軍拡を進めても、経済成長が続いている中国はそれを数段上回るスピードで軍拡を進めることでしょう。中国との軍事費増額競争には意味がありません。

日米同盟を堅持しつつ、冷え込んだ中国や韓国との関係を改善することが、もっとも有効な安全保障政策だと思います。東アジアの冷戦構造を解体することが、政治のめざすべき方向性だと思います。「地球儀を俯瞰する外交」と言いながら、すぐ近くの東アジア外交をおろそかにしてきた安倍政権の罪は重いと思います。自民党政権でも福田康夫総理のころは対中関係も比較的良好でしたが、その頃のレベルまで回復することを当面の目標にするとよいと思います。

軍事費の規模を知るだけでも、いろいろと国際情勢を理解する手掛かりになるのではないでしょうか。データに基づいて政策を議論することの大切さを高校生に知ってもらいたくて、いろんなデータを紹介するようにしています。今年も引き続き非常勤でときどき高校で講義することになりました。

*こちらもご参考まで:2016年9月14日ブログ「世界の軍事力ランキング」

世界の軍事力ランキング
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