トランプ大統領がどういう政権運営を行い、アメリカと世界をどうしようとしているのか、世界が注目しています。私も気になります。そこで新聞やテレビ、ネット等の公開情報と既知の知識だけを頼りに、「頭の体操」として大胆に大雑把にザックリとトランプ政権の行方を占ってみます。
CIAやFBI、NSA等のアメリカの全情報機関が集まって「National Intelligence Estimate(NIE)」という将来予測の情報評価報告書を作成していました。あとで読み返してみると、たいして当たっていません。将来予測というのは、莫大な資金と大勢の専門家の叡智を結集してもむずかしいものです。
まして私のような素人が一人で予測しても、正確な予測はむずかしいでしょう。と、自分の予測が外れることも、事前に予測しておきます。ましてスターバックスでコーヒーを飲みながら、適当に予測しているので、話半分くらいに読んでいただければさいわいです。
あまりに長いブログになってしまったので、国内政治と国際政治の2回にわけて掲載します。
1. 国内政治
【予測1】
ビジネスの手法を行政や政治の世界に持ち込み、混乱をもたらし失敗する。
行政のトップとしての政治的マネジメント能力(統治能力)はかなり心配です。何といってもアメリカ史上初めて公務や軍務に就いた経験のない大統領です。アメリカ大統領といえば、州知事や上院議員として経験を積んだ上で大統領に就任するのが一般的です。また多くの大統領が軍務に就いています。アイゼンハワー大統領のように第二次世界大戦の英雄もいます。
トランプ氏は公務や軍務の経験がゼロ。実業界と公的セクターでは、行動原理や哲学が大きく異なります。企業経営者としては、生産性の低い社員は解雇すればよいかもしれません。しかし、障がいがあったり、教育訓練を受けられなかったり、病気になったりして生産性の低い国民を、政府は見捨てることはできません。市場原理では救われない人たちに手を差し伸べるのが、政治の役割ともいえます。企業マネジメントと同じ発想で政治に関わるのは危険です。
かつて一世を風靡したNPM(New Public Management)と言われる行政経営手法がありました。企業的マネジメント手法を公的セクターに導入すれば、生産性があがってコストが下がるとされてきました。うまく行った例もあるでしょうが、うまく行かなかった例も数多いです。最近ではNPMという言葉もあまり耳にしなくなりました。
元自治官僚で新潟大学教授の田村秀氏の「改革派首長はなにを改革したのか」(亜紀書房、2014年)という本があります。その本によれば、日本の多くの「改革派首長」は、打ち上げ花火のように一過性の改革を並べ、改革派首長が去った後には何も残らないというパターンに終わるそうです。中央政府や公務員をバッシングして支持を獲得し、NPM発想で公募区長や公募校長の導入といった派手な「改革」を行う首長もいました。しかし、その成果は大いに疑問です。
ビジネスマン出身で行政経験がゼロのトランプ大統領は、日本の「改革派首長」のような行動をとると、私は予測しています。ビジネスの手法がベストだと信じ込み、行政の専門家の意見を軽視しそうな予感がします。行政の世界には、行政の世界のルールや経験則があり、それを無視してはスムーズに物事が進みません。
【予測2】
議会の力の強いアメリカでは、大統領が内政を思い通りにやるのはむずかしい。政治経験のないトランプ氏は、議会対策で苦労し成果をあげられない。
アメリカ政治を分析する上では、議会と大統領の関係も重要です。アメリカ大統領の権限は、外交や安全保障ではそれなりに強力ですが、内政に関しては意外と弱いです。議院内閣制の国では、首相イコール与党党首なので、首相の議会への影響力は強力です。
アメリカ議会では、日本の政党のように「党議拘束」みたいな発想がありません。上下両院の共和党議員は、大統領の意向に唯々諾々と従う必要はありません。大統領が共和党議員に命令することはないと思います。できるのは「お願い」です。自民党議員が安倍総理に逆らえないのと大違いです。
世論がトランプ大統領の政策を支持するのであれば、共和党議員はトランプ氏の政策に従うでしょう。しかし、世論の支持がなければ、アメリカの議員は平気で大統領に逆らいます。共和党主流派議員と民主党議員が連携すれば、トランプ氏の暴走にストップをかけられる可能性は高いです。共和党が上下両院で過半数を占めているとはいえ、議員経験も州知事経験もないトランプ氏は、議会とのやり取りで苦労し、成果をあげるのはむずかしいかもしれません。
次の4年間のアメリカ国内政治の分析にあたっては、ホワイトハウス(大統領府)だけでなく、議会を注目する必要があるでしょう。日本のメディアは、大統領の動向ばかり注目しますが、議会の動向をより詳細にモニターする必要があるでしょう。
【予測3】
成果をあげられる可能性があるのは、再分配政策の強化と公共事業の拡大。
トランプ氏の個々の政策に対して、世論がどの程度支持するのかはわかりません。しかし、貧困層や中間層のための再分配政策は、意外に広範な支持を得られるかもしれません。世論の支持が得られるか否かが、アメリカ議会対策の要になります。
トランプ氏は世論を「あおる(扇動する)」のは上手ですが、世論を「説得する」のはどうなのか不明です。世論を「説得」する能力が試されます。
公共事業の拡大については、議員の利益誘導にもなるので議会の協力が得やすい分野でしょう。もともとアメリカは公共事業が過小でした。これについては成功の可能性があります。
私がトランプ氏に期待しているのは、ウォールストリートの金融資本の望むような経済政策ではなく、中間層の再生や貧困層の底上げにつながる経済政策です。トランプ氏がどこまで本気で再分配政策に取り組むのかわかりません。メキシコからの移民やイスラム教徒を迫害することで人気をとるのをやめて、中間層を再生して再分配機能を強化する方向に向かえば、意外と良い大統領になれるかもしれません(可能性は低いでしょうが)。
【予測4】
4年間で任期が終わるだろう(再選はないだろう)。エスタブリッシュメントの消極的協力により、政治は停滞するだろう。
トランプ大統領は、ろくに検討もせず準備不足なままで新しいことを強引に始めようとして、議会や世論、メディアと軋轢を起こしそうな予感がします。選挙戦の間は反知性主義の権化のような人物でした。君子豹変するか否かはわかりません。なんとなく軋轢や摩擦を楽しんでいる風に見えます。
ワシントンD.C.の議会関係者や各省の官僚、シンクタンクの研究者は、「どうせ4年でいなくなる大統領」だと思っているかもしれません。エスタブリッシュメントが、4年間静かに消極的に抵抗し、議会関係者が結束してトランプ氏の暴走を抑え、「激変」を緩和するように計らうことでしょう。
たとえば、アーミテージやナイ等の対日政策に関わるエリート(いわゆる「ジャパン・ハンド」)は、共和党系も民主党系も同じような考え方です。これまでは政権交代が起きても対日政策はあまり変化しませんでした。こういうエリートたちが、トランプ氏が無茶をしないように歯止めをかけることでしょう。
トランプ氏やその側近が強い思い入れを持っている政策課題以外は、今まで通りにエスタブリッシュメントのエリートたちが粛々と政策の継続性を担保すると思います。これからのアメリカ政治は、「トランプ氏(とその側近)が強い関心を持つ政策課題」と「トランプ氏(とその側近)が無関心の政策課題」で大きな差が出ると思います。無関心な政策課題は、これまでの延長線上に物事が進むでしょう。しかし、関心の強い政策課題に関しては、激変が起る可能性もあります。
トランプ氏はあまり執着しない人のように見受けられます(飽きっぽいということです)。深く考えずに発言し、興味がなくなったら、アッサリ引き下がる、という行動パターンになるような気がします。「一貫性」とか「整合性」とかにこだわらなさそうです。トランプ政権の4年間は、アメリカ国内に混乱を巻き起こし、生煮えの政策や一過性の「改革」のオンパレードになるかもしれません。
【予測5】
アメリカにとっては悲劇の4年間になるだろうが、その反省のなかから立派な大統領が生まれて政治が再生するかもしれない。トランプ氏の次の大統領に期待できるかもしれない。
これは予測というよりも、願望です。アメリカの民主主義の偉大さは、誤った方向に進むことがあっても、軌道修正する能力があることだと思います。民主主義はいつも正しい結論を出すとは限りませんが、それでも誤ったときに再修正する仕組みがビルトインされています。トランプ氏の次の大統領をつくることが、アメリカ民主党の課題です。没落しつつある白人労働者階級の怒りをたきつけるという手法はもう使えなくなります(人口動態を見れば、白人有権者の割合の低下は明らかです)。アメリカの分断を修復する大統領が現れることを期待を込めて予測します。
次回は「国際政治」についての予測です。乞うご期待。