落選して良かったこと(?)

2014年12月の衆院選(埼玉13区)で落選したときは、そのまま政治活動を続けようか、それとも別の道へ進もうか、迷いに迷いました。縁もゆかりもない埼玉県の小選挙区で再チャレンジしても厳しいことはわかっていました。いったん政治の世界から離れて、別のことをやってみようかとも考えていました。

まず考えたのは、20代のころの国際協力の仕事に戻ることです。政治経験を生かせるポストもあります。JICAは新興国の民主化支援に力を入れており、選挙制度改革や行政官能力向上、議会事務局強化等のプロジェクトを実施しています。衆議院事務局が協力しているJICAプロジェクトもあるくらいなので、元JICA職員の経験と元衆議院議員の経験の両方が生かせるプロジェクトも世界にはあるかもしれません。

とりあえず昨年7月、4週間だけNGOのネパールの震災復興プロジェクトに参加させてもらいました。久しぶりの現場の仕事はやりがいはありました。しかし、現地で見た日本のODA政策の変容などを見て驚きました。安倍政権の下でODAの改悪が急速に進んでおり、強い危機感を覚えました。個別のプロジェクトで働くよりも、ODA政策の枠組みといった大きな流れを改善する仕事に関心が向かいました。ミクロのプロジェクトも大切ですが、マクロのODA政策や外交政策の問題点を解決したいという思いがムクムク湧いてきました。もともと国会議員をめざしたのは、ODA政策や教育政策の立案に携わりたいという思いからでした。ネパールの援助の最前線に戻ってみて、政治を志した原点を思い出しました。

また、ネパールに行く前から大学院の博士課程で勉強し直すことも考えていました。国会対策の最前線にいて日々の業務に追われていると、立ち止まって考えたり、深く掘り下げて考えたりする機会は限られます。衆議院議員を9年以上もやっていたら、だんだんと仕事がルーティーン化して楽になり、緊張感が足りなくなることもありました。

野党の国会対策委員長を5年以上やりましたが、就任1年目は新しいことばかり、学ぶことばかりでした。2年目も日々学ぶことは多かったように思います。しかし、3年目や4年目になると仕事に慣れて、あまり考えなくても手続きや発言すべき事がわかるようになり、先のこともだいたい予想できるようになります。学ぶことは年々減ってきます。1年目に学んだことを100とすれば、2年目は85、3年目は70、4年目は60、5年目は50くらいという感じで、学ぶものが年々低減するように思います。経済学でいうところの「限界収穫逓減の法則」です。5年目になると、頭で考えるよりも、脊髄反射で仕事をしていた気がします。慣れても成長し続けますが、成長率は鈍化します。落選という転機は、ルーティーン化して緊張感がなくなってきた仕事をいったん離れ、新しいことにチャレンジする良いタイミングだったかもしれません。

国会で働きながら学んだことや考えたことを整理するために、大学院にもう一度行こうと思い立ちました。追い立てられるように走り続けた9年半の政治家生活だったので、2~3年立ち止まってゆっくり考える時間を取ってもよいのではないかと思いました。そこで国立の政策研究大学院大学の博士課程「政策研究」コースに2015年8月に入学し、3人の政治学者にご指導いただきました。

8月入学という変なタイミングで入学したせいもあり、授業を受けた4コースともに先生と一対一のマンツーマン指導でした。生徒は私一人だったので、気が抜けません。居眠りなど不可能です。疑問に思ったことも好きなだけ質問できて、丁寧に説明していただけるので、とても得した気分です。今までの人生でいちばん真剣に勉強し、いちばん集中的に本を読みました。こんなに密度の高い授業を受けたのは初めての経験でした。

日本政治、事例研究、計量政治学など、大量の文献を読んで先生と議論しました。論文の書き方、社会科学の方法論など、学問の基礎をみっちり教えていただきました。国会議員時代の誤解や思い込みを思い知らされ、「自分はずいぶんと間違った主張をしていたものだ」と実感させられることもありました。また議員時代の素朴な疑問を先生にぶつけて、それに対して納得のゆく回答を得られたことも多々ありました。日本の政界の常識が、世界の常識から外れていることが多いのにも気づかされました。1990年代以降の構造改革や行政改革の失敗や成功も学問的立場から客観視することもできました。マスコミ報道が作り出すイメージと、実証研究の成果のかい離にも気づかされました。各国の政治や制度の比較を通して、日本の政治や制度をより深く知ることができたと思います。

大学院で勉強していたのは、2015年8月から2016年1月までの半年だけでした。しかし、現職議員時代の3年分くらい勉強し、身になったように思います。医師は医学を学び、弁護士は法学を学び、エコノミストは経済学を学びます。しかし、政治家は政治学をあまり学びません。もったいないことだと思います。

政治家(特にフルタイムの国会議員)は専門職だと思いますが、それに見合うトレーニングを受けていない人が大半です。政治学の基礎知識などなくても、運よく選挙に勝てば衆議院議員にはなれます。もちろん政治学の知識さえあれば、政治家が務まるわけでもありません。しかし、政治学の知識があった方が、国会議員としての役割をより効果的に果たせるのは間違いないと思います。プロ意識をもって政治の仕事に携わるには、大学院は良いトレーニングの場だと思いました。

自らの失敗を通して経験から学ぶより、政治学や歴史を通して他人の経験から学んだ方が効率的です。ビスマルクも「愚者は自分の経験に学び、賢者は他人の経験に学ぶ」といっていますが、国民も政治家に同じことを期待していると思います。責任ある立場の政治家が失敗すると、国民にとって不幸です。自分の失敗体験より、政治学や歴史学の蓄積から学んだ方が、世のため人のためだと思います。

政治家を9年以上やってから、政治学を学ぶと、理論と実践の比較ができ、とても興味深かったです。問題意識はハッキリしているし、教科書に書いてあることの行間まで理解できるので、短い間でも身につくものは多いです。キャリアの途中で専門性を磨くために大学に戻るというのは、とても費用対効果(時間対効果)が高いと思います。

ハーバード大学のビジネススクールには、ミッドキャリア用(経営幹部用)の短期研修プログラムがあります(Advanced Management Program)。ある程度以上の規模の大企業の経営幹部しか受講できないプログラムですが、なんと8週間で8万ドルという高価なコースです。それでも人気です。経営幹部の貴重な時間8週間と8万ドルもの大金をかけても、スキルアップに役立つということなのでしょう。私の場合は、大学に約70万円の授業料や入学金を納め、6か月間勉強しました。一流の政治学者にマンツーマンの指導を受けることができたので、国政に復帰できれば十分に元が取れる投資だと思っています。

ついでに、昨年9月上旬に大学院の博士課程の学生をやりながら同時並行で、北海道大学の公共政策大学院で2週間の短期集中講義の非常勤講師をやらせていただきました。公共政策大学院の学生の半分は学部からストレートに来た若い学生でしたが、残りの半分はミッドキャリアの現職公務員や弁護士さん等でした。社会経験のある学生は問題意識も明確で教えがいがありました。90分の講義を15回やるのですが、そのための準備には相当時間がかかります。よほど勉強しないと、大学院生を教えるのは不可能です。非常勤講師の経験もとても勉強になりました。授業以外でも北大の政治学者の皆さんと交流する機会がありました。日本政治を研究しているフランス人の政治学者や北海道の地域開発を研究しているフィンランド人研究者など、いろんな人と意見交換することができ、貴重な経験になりました。

落選してからいろんな経験を積んでいましたが、ご縁があって藤田一枝元衆議院議員に声をかけていただき、福岡3区の支部長(立候補予定者)に就任することになりました。大学院は休学することになり、学位(博士号)は取得できませんでしたが、身になる勉強ができてとても良かったと思います。あとは当選するだけです。国政に復帰する準備は十分できました。あとは選挙に勝つだけです。もっとも政治学を学んでも、どうすれば選挙に勝てるかはわかりません。日々地道に努力するだけです。がんばらなくては。