軍事評価機関が作成する“Global Firepower List”というのがあります。世界各国の軍事力を人口、地勢、資源、工業力等の50以上の要素で評価し、ランク付けするものです。なお、通常兵器の軍事力で比較しており、核戦力は基本的に評価対象に含まれません(多少は考慮されています)。
この手のランキングは、指標の取り方ひとつで大きく変わり、あまりあてになりません。しかし、国際比較するときのひとつの視点にはなるかもしれません。
2016年の世界ランキングは以下のようになります。
1. アメリカ:当然ですね。唯一の超大国の貫禄。豊富な実戦経験。
2. ロシア:さすが元超大国。シリアやウクライナで実戦経験豊富。
3. 中国:まだロシアにはおよびません。急激に軍事力を強化中。
4. インド:すでに大国。ロシアと欧米から兵器輸入。海軍も優秀。
5. フランス:アフリカで実戦経験豊富。いまも海外展開中。
6. イギリス:フォークランド紛争や湾岸戦争の実戦経験も。
7. 日本:専守防衛で実戦経験はゼロ。経済力と技術力で高評価か?
8. トルコ:クルド人ゲリラと内戦も。中近東の大国。
9. ドイツ:近隣に差し迫った脅威無し。それでもトップ10入り。
10.イタリア:近隣に差し迫った脅威無し。
意外と日本の評価が高いのに驚きます。日本はドイツより上位です。オリンピックとちがって、上位入賞をよろこんでいいのか微妙です。弱すぎても心配ですが、上位だからといって素直によろこべません。後述しますが、「強ければよい」というものでもありません。
2015年の日本の順位は9位でしたから、2016年になってランキングが上昇しています。安倍政権の取り組みをGlobal Firepowerは評価したのかもしれません。国際社会は「安倍政権は軍拡路線」と見ている証拠かもしれません。
ちなみに韓国は11位、北朝鮮は25位でした。核兵器と特殊部隊、弾道ミサイルを除けば、北朝鮮の脅威は限定的と言えるでしょう。逆にいえば、北朝鮮にとって核開発が命綱ということです。北朝鮮の核開発は着々と進み、10年くらい前に比べれば、その脅威は増す一方です。大統領選の結果次第ではアメリカが頼りなくなる可能性があるなかで、中国やロシアと連携して北朝鮮の核開発をストップする方法を真剣に考える必要があります。
アジアでは、インドネシアが14位、ベトナムが17位、台湾が19位、タイが20位です。オーストラリアが23位であることを考えると、東南アジア諸国の軍事力はあなどれません。東南アジア諸国が、教育や経済開発、福祉ではなく、軍事費にお金を投じるのは、とても残念です。日本は中国やアメリカといっしょに東南アジア全体の安全保障の枠組みを改善し、東南アジア諸国が軍縮できる環境をつくっていくべきだと思います。
中国との関係を改善し、北朝鮮の核開発やミサイル開発を押さえ込み、東アジアで軍縮を実現することをめざしたいものです。「安全保障のジレンマ」に陥ることなく、東アジアの冷戦に終止符を打つために私も国政で努力したいものです。
ジョセフ・S・ナイは次のように言います。
力はそれ自体では良くも悪くもない。食品のカロリーのようなもので、大きいことが必ずしもよいことではない。大きすぎる力は、優先順位を歪めたり、自信過剰や不適切な戦略がつながったりすれば、恩恵ではなく呪いになることがある。「権力(パワー)は腐敗する。絶対的権力は絶対的に腐敗する」というアクトン卿の警告は有名だが、国家は「力の呪い」に苦しめられることがある。
隣国より強い軍隊を持とうと軍備拡張すれば、相手国も軍備を強化します。軍拡競争が進めば、両方が経済的負担に苦しみ、戦争の脅威を高めます。安全性を高めようと思って防衛力を強化した結果として、隣国が脅威に感じて軍拡を進め、シーソーゲームのように軍拡が両方の側で加速する状況を「安全保障のジレンマ」と呼びます。
東アジアからインド洋にかけて安全保障のジレンマと言えそうな状況が広まりつつあります。米国、中国、インド、豪州、アセアン諸国などと対話と相互理解に努め、アジアの冷戦を終わらせることをめざすべきです。日本も当事者としてアジアの軍拡を防ぐために行動するべきです。
安倍政権がやってきたのは、真逆のことばかりだと思います。安倍政権の外交・安保政策のおかげで北朝鮮や中国に対する抑止力が増したとは思えません。日中の対話が活発でない状況が何年も続いて脅威は増し、抑止力はむしろ低下しているのではないでしょうか。そろそろマッチョな安倍政権の外交・安全保障政策のふり返り、方向転換を考える時期です。